数字で見る専門店の増加
街を歩くと、商業施設の一角や駅ビルの中に、壁一面に筐体が並ぶカプセルトイの専門店が目に入るようになりました。かつてはスーパーの出入口や玩具売場の脇に数台置かれていたカプセルトイの売場が、なぜ専門店という独立した業態に育ったのでしょうか。この記事では、公表されている調査と各社の案内をもとに、市場と立地の変化を整理します。
まず、数字を確認します。日本カプセルトイ協会の調査を伝える配信資料によると、全国の大小の専門店は、2024年度の時点で700店舗以上が営業していました。同協会の調査として報じられた内容では、2026年1月末時点で900店舗以上に達したとされています。2023年度には1年間で200店舗以上が新規に開業したとも伝えられており、わずか数年のあいだに売場の数が大きく増えたことがわかります。製造元出荷ベースの市場規模も、2022年度の約720億円から、2023年度の約1,150億円、2024年度の約1,410億円へと拡大しました。
ただし、この数字は「製造元出荷ベース」であり、消費者が支払った金額の合計ではありません。店舗数の伸びと市場規模の伸びは連動しているように見えますが、因果関係を断定することはできません。売場が増えたから市場が広がったのか、需要が広がったから売場が増えたのかは、調査から読み取れる範囲を超えています。数字の読み方はカプセルトイ市場の全体像で整理しています。
立地が変わった:空き区画、駅ビル、空港
専門店が増えた背景の一つに、立地の広がりがあります。ガチャガチャの森を展開するルルアークは、従来のカプセルトイについて「使われていないスペースの有効活用」「子ども向けの安価なおもちゃ」という概念があったと述べ、それを超えて「大人も楽しめる空間」を目指すとしています。ここから、カプセルトイが売場の「すき間」を埋める商品から、集客の核になる売場へと位置づけが変わってきたことがうかがえます。
同社の2026年5月の出店案内によれば、横浜のコレットマーレ店は1,180台のマシンを設置し、直営店とフランチャイズ店を合わせて全国で120店舗を超える展開をしています。バンダイの「ガシャポンバンダイオフィシャルショップ」は、2021年9月に始まり、2025年3月28日の報道時点で全国246店舗、全国47都道府県への出店を達成したと伝えられました。百貨店の一角にも、約13坪の区画で230面のマシンを置く店舗が開店しています。
空港にもカプセルトイの売場があります。羽田空港の公式サイトで紹介されているガチャワールドは、第3ターミナル5階のセキュリティチェック前にあり、約500種類を扱います。こうした立地の広がりは、商業施設や空港の側から見ると、空きスペースの活用、滞在時間の延長、訪日客の購買の受け皿といった複数の役割を担える売場として、カプセルトイが選ばれていることを示しています。専門店の運営会社やブランドは【比較表】ガチャ専門店チェーン・オペレーターにまとめています。
客層と価格帯が広がった
立地とともに、購入者の層も変わりました。日本カプセルトイ協会の資料は、2024年度調査では20〜30代の女性が「推し活」グッズとして購入する需要が人気を支えていると述べています。2022年度の調査ではメインターゲットが30〜40代と報じられており、購入者の中心は年度によって移ってきたと考えられます。食品や日用品、化粧品、アパレルとのコラボレーション商品も増え、企業が広告媒体としてカプセルトイを活用する例もあります。
価格帯も変わりました。2022年度は300〜400円の商品が中心でしたが、2024年度には400〜500円が中心となり、200円の商品はほとんど見られなくなりました。一つあたりの金額が上がれば、同じ購入個数でも売上は大きくなります。同時に、1回に支払う金額が大きくなることで、購入者はより品質やデザインを重視するようになり、専門店で丁寧に選んで買う行動と結びつきやすくなった、という見方もできます。この点は調査から断定できる事柄ではなく、あくまで読み方の一つです。
新商品の数も増えています。2022年度に毎月400種類超だったものが、2023年度に約500種類、2024年度に約700種類になりました。種類が増えるほど、一つの筐体では扱いきれないため、多数のマシンを並べた専門店が、品ぞろえを見せる売場として適していると考えられます。
売場の側から見た専門店の意味
専門店の増加は、カプセルトイの売り手だけの事情ではありません。商業施設や駅ビル、百貨店といった場所の提供側にとっても、専門店には独自の意味があります。一つは、空き区画の活用です。大きな面積の店舗が撤退した後に、複数の筐体を並べる売場を入れることで、区画の使い道が生まれます。もう一つは、来館の動機づくりです。新しい商品を目当てに足を運ぶ人が増えれば、周辺の店舗への回遊も期待できます。
実際に、バンダイが2026年8月に発表した山口井筒屋店は、百貨店の一角に約13坪の区画で230面のマシンを置く店舗でした。小さな区画でも、面数を確保すれば専門店として成り立たせる設計が可能であることを示す事例です。売場の側から見れば、広い面積を必要とせず、比較的短期間で出店できる点が、導入しやすさにつながっていると考えられます。
もっとも、賃料の条件や集客力は施設によって大きく異なります。同じ専門店でも、駅ビルの一等地と地方の郊外型施設では、期待できる来店客数も、採算の条件も違います。協会が地方都市への拡大を見込む一方で収益性の悪化にも言及しているのは、売場が増えるほど、一店舗あたりの条件が厳しくなりうるためと読み取れます。出店を検討する際は、施設の客層や周辺の競合を事前に調べることが欠かせません。
これから:地方展開と成熟期
では、専門店はこれからも増え続けるのでしょうか。日本カプセルトイ協会の2024年度調査を伝える資料は、2025年の市場は引き続き拡大する一方で、首都圏など都市部では専門店が飽和状態にあり競争が激化していること、収益性の悪化による撤退も始まる見込みであることを述べ、市場は拡大期から成熟期へ移行すると予想しています。2025年は地方都市への拡大が見込まれる、とも記されています。
この見通しから、読者が確認しておきたい点を三つ挙げます。第一に、専門店の数は増えていても、個々の店舗が利益を出せるとは限らないことです。賃料、人件費、在庫のロスなどの固定的な負担が大きいため、回転数がわずかに下がるだけでも採算が変わります。専門店開業・筐体設置のビジネスモデルでは、仮定の計算例でその構造を示しています。第二に、地方への展開では、人口や来店客の規模が都市部と異なるため、売場の面積や台数の考え方を調整する必要があります。第三に、訪日客や自治体との連携のような、新しい需要の取り込みが、売場の差別化につながる可能性があります。インバウンドと地域・キャラクターIPで事例を整理しています。
カプセルトイの専門店は、市場の拡大とともに生まれた新しい業態ですが、業態としての寿命や採算は、これからの数年で試されることになります。消費者としては、売場が増えて選択肢が広がったことを楽しみつつ、事業者としては、数字を冷静に読み、自社の立地や客層に合った運営を考えることが大切です。
